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長崎家庭裁判所 昭和49年(少)602号 決定 1975年3月03日

少年 K・S(昭三二・一二・二二生)

主文

少年を長崎保護観察所の保護観察に付する。

昭和四九年少第六〇二号事件のうち、別紙(第二)一覧表記載の窃盗については、少年を保護処分に付さない。

理由

(非行事実)

少年は

第一、別紙(第一)一覧表記載のとおり昭和四九年七月三日午前八時三〇分ころから同年九月一日午前七時ころまでの間前後四回にわたり、大村市○○○×××番地の×○○ボーリング場横駐車場ほか三か所において、○村○敏ほか六名所有にかかる現金九万六、〇〇〇余円および自動二輪車、財布など一一点(時価合計約九七、〇〇円相当)を窃取し、

第二、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四九年七月三日午前一一時三〇分ころ、大村市△△△××××番地先国道において、自動二輪車(大村市○×××号)を運転し、

たものである。

(適条)

第一の各事実につき いずれも刑法二三五条

第二の事実につき 道路交通法一一八条一項一号

(処分の理由)

少年は、幼少のころ父親と死別し、更に中学二年生のころ母親が家出して所在不明となつたことから家庭が崩壊し、以来姉や兄の監護下に置かれたが、いずれともなじめないばかりか、高校を一年で中退後就職したものの長続きせず、家出を繰り返し、昭和四八年七月銃砲刀剣類所持等取締法違反で補導(審判不開始)されたのをはじめ、昭和四九年七月窃盗等(本件非行)により再び補導され、一旦長姉T・K子(T・Zと結婚)に引き取られたのに間もなく更に家出し、同年八月から九月にかけてなお窃盗を重ねていた(本件非行)ものであつて、かなりの期間不安定な生活を続け、非行を累行しており、又性格的にはとくに自己中心的、投げやり的な傾向が窺え、更に観護措置期間中の観察では改悛の情がほとんど見受けられず更生の意欲も認め難く、これらの諸点を合せ考えると、場合によつては施設に収容して強力な矯正指導が必要であろうと思われた。そこで、家庭裁判所調査官の試験観察に付したところ、少年はその後悔悟の情を示し、補導委託先の寿司屋でほぼ良好な成績で大過なく勤めており、更生の兆しが窺える。従つて現段階において少年を施設に収容するのはあまりに早計であり、前記非行性の程度、少年の資質、家庭環境等を総合的に考慮し、少年を保護観察に付する。

(非行事実を認定しない部分について)

昭和四九年少第六〇二号事件のうち、別紙(第二)一覧表記載の各非行事実(窃盗)はいずれもこれを認めるに足りる証拠がなく、その証明がないので、この部分につき少年を保護処分に付さない。以下、その理由を述べる。

一、一件記録によれば、同(第二)一覧表記載のとおり、それぞれ盗難被害の発生したことが明らかに認められるところ、更に、少年の司法警察員に対する昭和四九年九月五日付(三通、昭和四九年少第六〇二号事件記録二三丁、六〇丁、七四丁)および同月一三日付(同三四丁)各供述調書には少年が前記各犯行を自白した旨の供述記載があるばかりか、司法警察員作成の同年九月四日付および同月五日付(二通)「窃盗被疑者K・Sの現場引当り捜査結果について」と題する各書面によれば、少年は同(第二)一覧表一、三、四の各犯行の現場引当り捜査の際、捜査官に対し、それらの各犯行状況を説明した旨の捜査報告がなされていることが認められる。

二、ところが、少年は、当審判廷において、同(第二)一覧表の各犯行について「自分はそれらの犯行はしていないが、捜査官に「お前がやつたのだろう。」と執拗に言われたので、捨てばちになり、現場引当り捜査の際も、取調べの際も捜査官から問いただされたことに対し、そのまま『はい。』と答えた。」旨述べ、同各犯行を否認しているので、検討するに証人T・K子、同○田○、同T・Z、同○藤○則、同○武○芳(編注・T・K子、T・Zは姉夫婦、○田○、○藤○則、○武○芳は少年の取調べにあたつた警察官である)の当審判廷における各供述、緊急逮捕手続書、「窃盗被疑者K・Sの余罪一覧表の添付について」と題する書面、昭和四九年七月八日付、同月一五日付、同年八月一〇日付、同月一四日付各実況見分調書、鑑別結果通知書、○浜○ツ、○橋○、○藤○代、○泰○作成の各被害届、前掲少年の司法警察員に対する各供述調書および少年の当審判廷における供述によると、(一)、少年は昭和四九年九月二日別紙(第一)一覧表三の窃盗の嫌疑により佐世保警察署警察官に逮捕されたところ、同日捜査官の取調べに対し、同犯行を認めたほか、更に余罪として窃盗一三件を自供し、自らその一覧表を作成したが、別紙(第二)一覧表の各犯行はそれらの自供の内に含まれていないこと、(二)、同(第二)一覧表の各犯行はいずれも少年の逮捕前に既に被害届が提出され、実況見分もなされていて、佐世保警察署の県内犯罪発生記録日報に掲載されており、捜査官は少年の逮捕後同日報を見て同各犯行の発生と被害内容について一応了知していたこと、(三)、捜査官は同年九月四日ころ、同各犯行も少年が犯したのではないかを少年に問い正したところ、少年がこれを肯定したので、現場引当り捜査をしたうえ、取調べを行い、自白の供述調書が作成されたこと、(四)、同各犯行については他に何らの裏づけ捜査もなされていないこと、(五)、とくに同(第二)一覧表一の犯行については、その犯行日時が同年七月六日午後九時ころであるが、少年は、これよりわずか前の同月三日大村市内を徘徊中補導されて姉T・K子に引き取られ、その後十数日間は同人らの監督の下で生活し、少くとも夜間は外出していないのであつて、同犯行につきいわばアリバイがあると言つてよく、しかも同犯行の被害金額は三〇万円余りで、少年は捜査官の取調べに対して、その金員の使途について、その頃レストランでステーキなどを食べた旨供述しているが、T・K子方で同人らと食事を共にしながらその頃更に三〇万円もの大金を食事に費すということは到底考えられず、少年の捜査段階における供述には明らかに不自然な部分があること、(六)、少年には短気で自棄的な性向が窺えること、などが認められ、これらの諸点を総合して勘案すると、少年の当審判廷における前記弁解には相当の信憑性があるものと認められる。

三、してみると、一見、少年が前記各犯行を犯したものと窺わせる前記少年の司法警察員に対する各供述調書や司法警察員作成の各引当り捜査報告書は、少年がかなり多くの窃盗を犯したことなどによる自暴自棄の心境から、捜査官の誘導的な質問に対し、真実に反するにもかかわらず、それに迎合して答えたことに基づいて作成された疑いが強いので、これをもつて前記各犯行が少年によるものと認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

従つて、前記別紙(第二)一覧表記載の各非行事実(窃盗)については、その証明がないので、この部分につき少年を保護処分に付さないこととする。

(結論)

よつて保護処分につき少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を、不処分の部分につき少年法二三条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 熊田士朗)

別紙(第一)一覧表

番号

犯行年月日

(昭和)(年)(月)(日)

犯行場所

被害者

被害金品

品目

数量

価額

(約) (円)

四九、七、三

午前八時三〇分ころ

大村市○○○×××-×

○○ボーリング場横駐車場

○村○敏

自動二輪車

エンジンキー

一台

一個

八、〇〇〇

一〇〇

四九、八、七

午前一一時ころ

佐世保市○○町××-××

県立○世○商○高校×年×組教室

○佐○智

現金

財布

一個

六、七一〇

五〇〇

四九、八、二六

午前一〇時ころ

長崎市○○町×-×

○う○化○品○前路上に駐車中の普通貨物自動車内

○ロ○行

現金

映画招待券

○早○-○エ○招待券

財布

二枚

一枚

一個

八七、〇〇〇

三〇〇

四九、九、一

午前七時ころ

佐世保市○○町×-××

県立○世○北○卓球部部屋

○藤○治

ほか三名

現金

財布

定期券入

三個

一個

二、八九〇

三〇〇

五〇〇

別紙(第二)一覧表

番号

犯行年月日

(昭和)(年)(月)(日)

犯行場所

被害者

被害金品

品目

数量

価額

(約) (円)

四九、七、六

午後九時ころ

佐世保市○○町×××

○○○幼稚園職員室

○○○幼稚園園長

○崎○郎

現金

三一三、一四〇

四九、七、一五

午前六時ころ

佐世保市○○町×××

○橋○万前路上

○橋○

パン

パンケース

二一個

一箱

一、〇二〇

一〇〇

四九、八、一〇

午前五時ころ

佐世保市○町×-×○○ビル一階

スナツク「○ン○ア」

○藤○子

現金

貯金びん

一個

二二、〇〇〇

四九、八、一、三

午前四時三〇分ころ

約佐世保市○○町×-×

○○ビル二階 スナツク「○」

○泰○

現金

一九、〇〇〇

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